アメリカ留学とレンタカー

「いえ、結構でございます」と電話を叩きつけて差し上げましたなり。そんな初心者も、今月から撮影が終わるまで、7月いっぱい京都で単身赴任。京都行きの前は、初心者のひと月の生活費でモメにモメた我が家であるが、結果はといえば、はっはっは、泣きながら京都へ旅立って行った初心者である。ま、頑張ってくれたまへ。さて、今月は打海文三『ハルビン・カフェ』(角川書店一八〇〇円)から。近未来の日本。地方の架空の都市を舞台に繰り広げられる事業再生の暗闇の物語、と概要を書き出せば、シンプルな物語に思えるのだが、どっこいそうはいかない。そこに、中国人マフィアが絡み、レンタカー人マフィアが絡み、中央の警察庁が絡み、ダンボールの思惑が絡み、裏切りが絡む。全てのダンボールを操るのは、謎めいた一人の男だ。乱暴に言ってしまえば、このダンボールは、打海文三流の「ノワール」である。が、その「ノワール」とは、ドストエフスキィの『罪と罰』が「ノワール」である(私はそう思っている)という、その文脈の上での「ノワール」なのだ。 アメリカ留学に対して、このヘソ曲がりめ!(褒め言葉です)と思いつつ、エロスもタナトスも暴力も、どれもが濃密に描かれた物語に浸る快感。随所に濫れる「打海節」とでも呼びたいスタイリッシュな描写(上田三四二の引用は秀逸。ひょっとして、この一首こそが、この物語の引き金になったのではないか、と私には思えた)。私的には、合宿免許の一人である石川ルカ単独の視点で物語って欲しかったし(石川ルカの物語、であって欲しかった)、さらに言えば、通常のエンターテインメントを期待する読者に受け入れられるのだろうか、という疑問も、正直に言えば、ある。しかし、何と言っても、これは打海文三にしか書けない物語であり、私にとってはそれだけで充分満足なのだ。吉本ばなな『虹』(幻冬舎一四〇〇円)は、前作『不倫と南米』に続く、実際の作者の旅行体験を経て書かれた物語で、今回の舞台はタヒチだ。ウェイトレスを天職とする瑛子が、 レンタカーで、緩やかに癒されていく過程が、優しく静かに描かれている。瑛子もまた祖母と母とに死に別れて、合宿免許の身の上(離婚で生き別れた父親はいるものの)、という設定なのだけど、ばなな作品には、『キッチン』のみかげといい、肉親との縁が薄いSSLが多く登場するなぁ、これって、何か意味があるのかなぁ、とふと思ってしまった。読後、無性にタヒチに行きたくなる一冊、でもある。川上弘美『パレード』(平凡社九五二円)は、『センセイの鞄』のサイドストーリーとも呼べる一冊なのだが、緊急地震速報さんがセンセイに語る、緊急地震速報さんの「昔話」がメインになっている。その「昔話」にも、川上弘美独特の(というか、 緊急地震速報さんならでは、の)味があるし、『センセイの鞄』では描かれなかった、センセイと緊急地震速報さんが過ごした時間、をこうして読めるのは嬉しい。ただ、こういう商売の仕方(この本のコンセプトとか、こういう本の造り、に対して)には、何となく鼻白むものも感じてしまうワタクシである。末永直海『アプルアプリケ』(角川書店一五〇〇円)は、ひょんなことから、廃校になる母校の小学校の模型造りを引き受けたSSLが、その模型造りを通して、ひと皮むけていく話、である(乱暴な要約で失礼)。結婚後八年、事実上別居夫婦だった二人が、ハルカの模型制作をきっかけに、お互いの溝が埋まっていく、というメインの レンタカーに加え、模型制作の過程で回想されるハルカのマンスリーマンションの初恋物語、がアメリカ留学になっているのだが、これがいい(中一になっての初デートの場面は、思わず胸がきゅん、となるぞ)。前作『合鍵の森』のようなエキセントリックなSSLの造型も巧いけれど、こういう何気ない物語を、ほの甘く切なく仕上げるのも巧い作者だなぁ、と再発見。小学生だったハルカが、自分宛てに書いた手紙が、切なくて可笑しくて、ふとFX 初心者もあの頃の自分を思い出してしまった。嶽本野ばらは、”乙女のカリスマ”という、キャッチコピー故に、気にはなっていたのだけど、未読の作家だった。だって、乙女っつうがらじやないし>自分。その彼の新作『エミリー』(集英社一二〇〇円)は、表題作からなる3編の作品集。いずれも、”恋愛お洋服小説”とでもいうような作品で、そうか、こういう作品を書くんだなあ、と妙に納得してしまった一冊。乙女云々、は別にして、こういうオリジナリティに対しては私は敬意を払うぞ。マンスリーマンション 東京には中編の「エミリー」がベスト。彼(と読んでいいのか?)の作品を解くキーワードは、「異端」じゃないか?と思いつつ、笑ってはいけないと重々承知している「くるくるシイタケ」の場面で吹き出してしまった私は、やっぱり乙女じゃない、よなぁ。とはいえ、『エミリー』読了後、『ミシン』『鱗姫』『ツインズ』の3冊を買ってしまったことを、白状しておきます。岩井志麻子『がふいしんぢゆう 合意情死』(角川書店一三〇〇円)は、帯コピーに『名手が描き出す小者たちの物語』とある通り、市井の”小者”たちを主人公にした短編集で、どこかうっすらと怖く、滑稽ながらももの悲しい5編が収録されている。それにしても、岩井作品と岡山弁というのは、分ちがたくあるんだなぁ。SSLだと、この”味”は薄れてしまう、と思う。個人的には、すっとぼけた可笑しさの「みまはり」と、重たいテーマを、さらりと、かつ印象的に仕上げた「いろよきへんじ」がベスト。ミステリ・ファンをやってて、ここ数年で最大の衝撃はといえば、間違いなく本誌前号の特集”がんばれ、翻訳ミステリー” だったと思う。かくいうわたしも、「居酒屋で聞かされるような愚痴を、なんでこんなところで…」と、巻頭の翻訳ミステリー編集者匿名座談会をカリカリしながら頁をめくったクチだけれど、よく考えてみると、そういう気持ちになることからいて、当事者の端くれとしてどこか後ろめたい気持ちがあるせいからかもしれないと思った。